我思う、ゆえに我蹴る。アンドレア・ピルロ自伝
アンドレア・ピルロ (著)
アレッサンドロ・アルチャート (著)
沖山ナオミ (翻訳)
1600円+税 東邦出版
もっとクールで退屈な内容のものを想像していたが、想像を超えるぶっちゃけぶりが良かった。
あまりのぶっちゃけぶりに、大久保嘉人の顔が頭に思い浮かぶほど。大久保はとにかく豪快で、自分が喋った事が多少の誇張も含めて新聞記事になったとしても全くクレームをつけることがない。そしてそれはプレー面でも同じで、移籍初年度の2013年シーズンは、とにかく自分にパスを出せとチームメイトに要求。それでボールをロストしたら、責任はオレが取るとまで見栄を切る。そしてそこまでチームメイトに要求してボールを引き出し、パスワークの担い手のひとりとして風間サッカーの根幹を成してきた。
そんな足一本でのし上がってきた選手特有の豪快さを持つ大久保と同じ匂いがこの本から漂ってきた。
ぶっちゃけばなしの一例として上げられるが、早熟がゆえの苦悩。時に上手すぎる選手は、人からの妬みの対象になりうるということが彼の実体験として描かれていて興味深かった。
そしてそんなピルロに対する妬みが、ちょっとだけリリイ・シュシュのすべての中で描かれている女子の妬みに似ていて脳裏をよぎった。こちらの映画は後味が悪すぎるので、今更見ることは勧めないが。
妬みと悩みの中で始まった大人の世界との邂逅を消化したピルロは、徐々に饒舌となる。チームメイトとの遠征先でのイタズラやロッカールームでのエピソードはイタリアでのプロサッカー選手の日常生活が垣間見えてきて面白い。
例えば、チームメイトのゲン担ぎについて記した「ジンクス」では、ジラルディーノの古いスパイクの話や、インザーギでのロッカールームでの臭い儀式などが面白おかしく記されている。また、けが人が出かねないセバスティアーノ・ロッシのゲン担ぎなどは狂信的なレベル。
サッカーの取材をしているとゲン担ぎについて聞くことは多いが、今売り出し中の谷口彰悟は、ゲン担ぎをしないと話していて面白かった。自分を縛ることになるそうした迷信を持ちたくないのだという。
イタリアサッカーでの負の部分、例えばユベントスの八百長事件や、暴力的なサポーターや人種差別についても記されている。
例えばサポーターの暴力については
僕がうんざりするのは、クラブ間でのライバル心に憎悪が加わり、野蛮で下劣な行為が頻繁に生じていることだ。との書き出しで、実際に経験した暴力的な被害の一例を率直に書いている。
人種差別についてはバロテッリについてのエピソードが記されている。
代表監督のプランデッリが彼に与えたアドバイスは素晴らしい。人種差別に対し、抱きしめて対処するというのは先日つぶやいたゴトビ監督の対応と同じ。欧米でのハグの位置付けが垣間見えてくる。
「スタンドからリスペクトに欠けた声が聞こえてきたら、そいつらのところに駆け寄ってハグしてやるといい」
ゴトビ監督と言うと、核に関連付けた中傷の横断幕が出たあと、ショーン・キャロルが監督にインタビューしたとき「掲出した相手チームサポーターを抱きしめたい(それは慈しむという意味で)」と話してたと教えてくれたことがある。彼の主張は昔から一貫してる。インタビューは日本語になったのかな?
— 江藤高志 (@etotakashi) 2014, 3月 24
優等生タイプの選手は絶対に踏み込まない領域についてもしっかりと自説を述べているのは立派だった。
なお、この本が日本語の出版物だからということではないのだろうが、プレイステーションや漢字など、うっすらと日本の話が出てくるのがまた嬉しい。
訳者である沖山ナオミさんご自身がピルロ自身にメールで問い合わせるなどして書き上げた一冊。ブラジルワールドカップにて、代表引退を公言しているイタリア人トッププレーヤーのメンタリティを知る意味でも、本大会前にぜひどうぞ。
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