「凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦」
日々野真理・著 KKベストセラーズ
日々野さんの人物としての雰囲気そのままに物語は進行して行く。入り込みすぎず、離れすぎず。裏表のない笑顔で会話する。そんな日々野さんが、日常的に見せてきた立ち居振る舞いが、そのまま文章になったと言う印象を持った。
無理にクライマックスを作るでもなく淡々と。ただし、現場にいるものにしかわからない描写を織り交ぜて、物語は進行して行く。
日々野さんは、今大会の優勝の鍵を、チームの団結だと書いている。そしてそれをもたらした一つの要因がイングランド戦後の2選手の奇行にあると書く。
暗く落ち込んでいたチームを大野忍と共に明るく再生させた宮間あやは、その理由として、これからもそうしてきたからだと話す。なでしこフィーバーが吹き荒れる中、ほとんど表に出ず、沈黙を保ち続けた天才プレーヤーに対するインタビューは、もっとボリュームを割いてでも読んで見たかったものだった。
宮間に関しては澤穂希と共に、本書に登場する重要なキープレーヤーとして描かれている。そしてそれらの彼女の描写を読み進めるに連れ、彼女が時折見せるおどけた仕草や、ベンチのメンバーと共に抱き合う様子。そして、彼女が発する一つ一つの言葉の中に表層的に、見えるもの、感じられるものを超えた深遠なメッセージを秘めているのだろうと確信させられた。そして、そうした宮間の奥深さをさりげなく伝えているところに、この本のいい意味での軽さがあるように感じた。
個人的には、決勝戦を2日前にしたトラムでのエピソードが印象的だった。いろんな感情や重圧の中にいた非現実的な日常が、ふと、本来あるはずの平穏な日常に戻った瞬間、感情のタガが外れてしまった。だからこそ、心中から溢れ出す様々な感情が涙となって表出したのだろう。そして感情のタガが外れるほどにまで、高度の緊張状態を強いられていたのだとしたら、日々野さんにとって世界大会の取材は、それほどまでに厳しいものだったと言える。
トラムに迷い、心細くて泣いているのだと勘違いし、言葉をかけてくれたというドイツ人のおじいさんの存在と共に印象に残る一節だった。戦いの日々の重圧がはっきりと伝わってきた部分だった。
本書はサッカーを技術的に論じたものではない。レポーターとしてなでしこジャパンに帯同し、選手たちとコミュニケーションを取ってきた日々野真理が彼女の視点で大会を切り取った物語である。
凛と咲く |
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