セレッソ・アイデンティティ 育成型クラブが歩んできた20年
横井 素子 (著)
振り返ると、当時高校生だった香川真司とセレッソ大阪との契約はちょっとした話題になっていた。その香川が成長し、日本代表の主軸として活躍し、世界の舞台で世界と渡り合う。そんな夢のような成長譚を影で支えていたのが、森島寛晃というレジェンドの存在だった。
セレッソ大阪の象徴的な背番号である「8番」を背負った選手のエピソードを軸に語られるこの本は、18年のセレッソでのキャリア(と3年のヤンマーでの選手歴)の中で、多くの選手に影響を与えてきた森島を巡る物語でもある。森島が築いてきた歴史と伝統を背景に、セレッソというクラブで成長した選手たちの物語が、非常に濃密でありながら、くどさを感じない繊細な筆致で描かれていた。
深みがあるのにあっさりとしているのは、著者の横井さんが広報としてチームに長く携わってきたからであろう。クラブの内部での出来事を最も近いところで目撃し、当事者間で何が起きていたのか、かなり深い部分まで知りうる立場だったということ。その一方で、広報として情報を外部に伝える立場である事を自覚し、常に自らのクラブを客観視しし、出すべき情報を精査してきたその経験が、読みやすい文体に現れているように思う。
香川真司に始まるこの物語はどれも興味深いエピソードばかりだが、柿谷曜一朗について描かれた第4章はより多くの人に読んでほしい物語だった。
早熟が故に、一度ドロップアウトしかけた柿谷の復活劇は、すでに多くの言葉で語り尽くされているが、クラブスタッフの立場から書かれたこの文章には引きこまれた。育成に携わり、目の前の才能を開花させられずにいる現場の指導者の皆さん。そして、今現在。そして将来に渡り、自らの才能を信じ、それが故に自らの境遇を受け入れられずにいる"天才"にも読んでほしいエピソードである。才能のある選手が、その可能性をヒネタ感情で閉ざす事のないよう、柿谷の復活の記録は広く継承されるべきモノだと感じた。
なお、第3章で語られるハナサカクラブはクラブに関わるサポーターを巻き込んだ大事な取り組みとして他クラブにも模倣してもらいたい事業だと思う。
いずれにしても、セレッソサポーターのみならず、ご一読をオススメしたい一冊だ。
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ちなみにこれは余談になりますが2012年に出版したアイスブレイクメニュー集は、森島寛晃さんにもメニューを提供してもらってます。
セレッソ大阪に協力を依頼したところ、快く返事をいただいたのですが、メニューの提供者が森島さんだったということにまずは驚き、そして丁寧に手書きでメニューを書いてくれた上にわからないことを問い合わせる際の電話番号としてご自分の携帯番号を記載されていて驚かされました。元々腰の低さは知っていましたが、実際にその体験してみて改めて愛される理由が分かりました。
ちなみにぼくは、空間把握能力でピカ一のセンスを持っていた西澤明訓さんも好きでした。西澤さんのボレーシュートの数々は、本当に素晴らしかった。
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