直接取材をした14節千葉戦と22節横浜FC戦とで、町田はボールを保持し続けた。パスワークの巧みさだけを見るならば、町田は相手を圧倒していた。しかし、町田はボールを前に運ぶことができなかった。固いブロックを形成した千葉との対戦では、そのブロックの外側でしかボールを繋げられず、決定機を作れなかった。そして、ロングボールやリスタートから不用意な失点を繰り返した。
22節の横浜FC戦では、選手たちが怯えながら試合を進めているように見えた。ボールを前に運ぶために必要な自信を完全に失くしているように見えた。そんな横浜FC戦後、コリン・マーシャルは「今このチームに必要なのは自信で、それはまず1つ勝つことでしか身につけられないもの。だから勝ちたいんだ」と話していた。
自信をなくし、臆病に相手ブロックの外側でしかボールを繋げられない横浜FC戦での町田からは全く得点のニオイが感じられなかった。せっかくボールをキープしているのにもかかわらず、単純なミスから失点を繰り返す展開は見ていて残念なものだった。
そうした町田の過去の試合を踏まえているのだろう。甲府の選手たちが敢行した前線からのプレスは、町田を叩く方策としては正しかった。ただし、この日の町田が違っていたのは、プレスを掛けられたとき、それに慌てながらも徐々に自分たちのペースを奪い返したという点にある。
ケガから復帰した薗田淳は、距離感の問題から、前にパスを繋げられず、蹴らざるを得なかったのだと試合の立ち上がりの時間帯について説明する。しかし町田は、1点を失った後の時間帯でボールを前に運び始める。
その1つの理由として1点をリードした甲府が落ち着いてしまったのは事実であろう。ただ、それにしても町田はボールを前に運び始める。ボールを引き出すための工夫が見られていたのである。
平本一樹と共に2トップの一角として先発した鈴木孝司は、「ボールを引き出す動きを工夫しました」と試合を振り返る。彼は、斜めに降りてボールを引き受け、サイドに開いて起点となる事を意図した。また常に平本を視野に入れ、平本が中盤に降りた時は前線に残るという動きを意識していたという。
こうして前線に起点ができたことでボールは前方へと動き、時間が生まれたことで攻撃に参加する選手が増えたのである。
1−0で辛くも逃げ切った城福浩監督は「ラスト10分の印象では見ていない。80分まででは負けるはずはない。ポゼッションはさせていたが、決定機はなかった」試合だと胸を張る。確かに町田に決定機は殆ど無かった。ただ、町田が試合を支配し、ボールを回して甲府のブロックを攻め崩そうとトライを続けていた試合展開だったことに間違いはない。ボールを回すためのボール回しから、点を奪うためのボール回しへと進歩していたのである。
そんな試合内容の改善についてコリンは「そうなんだ、よくなっているんだ。ただ決定機は少ないね。ラストパスの精度がまだまだ低い。でもそれでもやれるはずなんだ。だからこそこの前も話したけど僕らには自信が必要だと思う。勝つことでもたらされる自信が必要なんだ」と甲府との試合後に語っていた。
自信というと、町田の選手たちの心にくい配慮が鈴木に対してあったという。幻となったPKの場面。あのままPKが行われていたとして、スポットに立つのは鈴木になるはずだったという。
「先輩方が蹴らせてくれようとしてくれたんです」
ゴール前でのガツガツとしたプレーで可能性を感じさせてくれる鈴木は、その意気込みとは対象的に今季ここまでノーゴールと結果が出せていない。そういう彼の現在の状況を考え、PKを蹴っておかしくない他の選手達が彼にキッカーの座を譲ったのだという。結果こそ出ていない町田ではあるが、チームとしての結束はまだまだ崩れてないことの証になる話だと感じた。
ボールが前に運べていたという点で、決して悪くはない試合を見せたことについてアルディレス監督に質問したところ「薗田の復帰が大きい」と回答。彼の出場はもちろんだが、それにより太田康介をボランチのポジションに戻せたこともチームにはプラスだった。
アルディレス監督に名前を上げられたその薗田は、試合後に「こういう試合は過去にもやっているんです。山形戦がそうで、よくなったんだけど、その次の岐阜戦でいい戦いを継続できなかった。だからこの試合で多少良くなったからといって、安心してられないです。次の栃木戦が僕らには大事になります」とすでに頭を切り替えていた。大事だとのプレッシャーを自ら掛けて臨む栃木戦は、もしかしたら町田のJ2での成長を推し量るバロメーターになるのかもしれない。
町田のゴール裏のサポーターはどんな負け方であっても、声援で選手たちを鼓舞している。そのサポーターたちが「絶対残留」という横断幕を掲げ始めている。もちろんそれが重たい現実となり、町田の選手たちにプレッシャーを与えるにはもうしばらく時間が必要であろう。ただ、そうした事態が可能性としてありえるのだという事をそろそろ心に留めなければならない状況になりつつあるのも事実である。
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