川崎フットボールアディクト創刊のお知らせ

ご存知の方も多いかとは思いますが、JsGOALが1月末をもって更新を終了し、新サイトの方に統合される事となりました。
Jリーグの取材情報を記事として公開する場として、本当にお世話になってきました。

JsGOALには感謝の気持ちしか無いのですが、そのJsGOALもホームゲームのみの取り扱いということで情報の半分は出せないという状況があったため前から川崎フロンターレ専用のニュースサイトを立ち上げようとは考えていました。

今回、いろんなタイミングが一致して、Webマガジンという形で、サイトを立ち上げる事になりました。声をかけていただき、クラブ側にも理解していただき了解をもらえました。掛け持ちもOKだと言われていたJsGOALの統合による運用の停止は想定外でしたが、そんな動きの中でできたのが川崎フットボールアディクトというサイトになります。


U17ワールドカップメキシコ2011時の写真
中島翔哉は中央 JFAのWebより


FWとして求められる資質について考えたことがある。北京五輪に出場した大野忍がシュートを外し続け、途中交代させられた、という試合を見た後のことだ。その采配について、あるクラブのスタッフと議論になったのである。

論点は1つ。シュートを外し続ける選手の交代の是非である。

クラブスタッフは「あのまま彼女を使い続けたとして、彼女が自信を失くしてしまう。だから佐々木則夫監督の交代の決断は正しい」との意見を持っていた。しかし、ぼくは「彼女を引っ張り続けるべきだ」との考えを持っており、その意見を伝えた。シュートを外すことにも意味があると考えたのである。この議論は平行線のまま終わった。

では、シュートを外すということはストライカーにとってどんな意味を持つのであろうか。

そもそもシュートを外し続けるためには、シュートを打ち続けなければならない。そして、シュートを打つというのはそう簡単なタスクではない。

シュートを打つには、そこに持ち込むためのスキルが必要となる。例えば、パスを呼び込むための予備動作や、ファーストトラップで確実に打てる場所に止める技術である。余計な横パスや、ドリブルを1つ増やすだけで、バイタルエリアには分厚いブロックが形成される最近のサッカーにおいては、シュートする事自体がそう簡単なことではないのである。

また、ゴール前にいて、ボールがこぼれてくる場所を嗅ぎつける嗅覚というものも必要となる。こぼれ球を決める形でのゴールが多かった谷口博之にその感覚について聞いたことがあるが、彼は「(別の選手が)シュートした時、ここにこぼれてくるだろう」と思う場所にポジションを取るのだと話していた。つまりゴール前の嗅覚というのは、感覚というよりも可能性の検討をより早く、そしていかに正しく、自らの経験に基づいてできるのかという事の積み重ねだという事が言えるのである。

これらの技術と同時に、シュートミスに対する気持ちの強さもストライカーにとって必要な要素であろう。気持ちの弱い選手がシュートを怖がる実例は枚挙に暇がない。少しばかり古い話になるが、多くの方に賛同していただける例として、1997年11月16日に行われたイランとのフランスワールドカップ・アジア第三代表決定戦における岡野雅行の消極性を覚えている方も多いはずだ。

つまり、ストライカーに求められる資質として、技術とメンタルの2つがある。そしてシュートを打つのは簡単ではなく、だからこそ、シュートを外せるストライカーに意味はあると考えるのである。

10月21日に行われた東京V対栃木において、18歳の現役高校生である中島翔哉が史上最年少でハットトリックを達成した。試合後の監督会見でその中島翔哉について問われた高橋真一郎監督は「翔哉の特長というのが、とにかくシュートを打ちに行くところ」だと話し、「我々がサイドを変えろと言ってもシュートを打つ」メンタル的な強さがあると半ば呆れ気味に述べている。

試合後にメディアに囲まれた中島翔哉は、9月14日にトップチームの一員として初出場し、初ゴールをねじ込んだ福岡戦時と同じような落ち着きぶりで、そしてその時の数倍にものぼろうかという報道陣を前に、淡々と自らのプレーを振り返った。そんな中島翔哉の受け答えの中で最も心に響いたのが次の言葉だった。

「点を決めれば誰にも文句は言われないので」

おっしゃるとおり。そんな気持ちの強さがなければ、シュートを外し続ける事はできない。外すことの怖さから逃げてしまうからだ。

そもそも、東京Vが栃木を迎えたこの39節の一戦は重い意味があった。たとえばそれは、この試合を前に上岡真里江さんがJsGOALに書いたプレビューのタイトルに「デスマッチ」との言葉を使っていることからも見えてくる。

【J2:第39節 東京V vs 栃木】プレビュー:プレーオフ圏内への浮上をかけたデスマッチ。“崖っぷち”の直接対決を制するのは東京Vか栃木か


38節終了時点で、東京Vが獲得した勝ち点は60。一方、栃木は57となっていた。プレーオフ圏内の6位につける横浜FCが61点であり、少なくとも6位以内でシーズンを終えるために東京Vにもまして栃木の勝ち点3への気持ちは強かった。そしてそれは栃木の松田浩監督の試合後のこんな言葉から明らかだ。

「ここで負けたらあとはない。ある意味、もう終わりだという覚悟でゲームを始めた」

そして、そんな思いプレッシャーに栃木の選手たちは押し潰された。松田監督は「それが(栃木サポーターに)どう映ったかどうかわからない」と話しつつも「選手は、自分がいま持っている100%の力は出したと思います」と選手たちを弁護していた。しかし菊岡拓朗は、自力を出しきれなかったように感じられたチームメイトとの不甲斐ない前半を振り返り「歯がゆかった。ガツガツやってほしかった」と述べている。

J2での経験が豊富な選手をして、力を出しきることの難しさを痛感させられた、そんな大一番で、マイペースにシュートを放ち、そしてGKとの1対1を確実にねじ込む技術の高さを中島翔哉は見せたわけだ。トラップからシュートにまで時間のあった1点目と3点目などは見事としか言いようがないゴールだった。

シュートを決める前にやることがある。それがシュートを打つという行為であり、それを支える技術である。そして、シュートを打つという決断を下すためのメンタルである。意志の力が技術を凌駕することはないが、技術を使うには意志の力が不可欠である。そしてそれは精神論などという薄っぺらい批判でないがしろにされるべきものなどでは、決してない。18歳の中島翔哉のハットトリックは驚くべきことであり、そして彼のメンタルを考えれば必然的なものでもあった。


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