試合を俯瞰してみての印象は、東京Vが横浜FCを圧倒した前半だというもの。しかし、川勝良一監督がシュートの少なさを嘆いてみせた通り、東京Vの前半のシュートは3本に留まっていた。攻め込んでいるように見えた前半に対し、フィニッシュで終われていないという現実が東京Vにはあった。
4−1−4−1の布陣を採用した横浜FCの岸野靖之監督は、この布陣で臨んだその理由を「自分たちの力が出るようにした」と説明する。しかし、1週間の準備期間と大学生相手の練習試合という実戦経験の少なさもあり、思うように形を作れずにいた。高い位置を取る相手のサイドバックの裏を突く動きからの崩しを狙っていたというが、肝心のパスがつながらず苦しむこととなる。
そんな中、前半25分に東京Vが深津康太の先制ゴールで均衡を破る。1点のマージンを手にした東京Vは、さらに前半42分の横浜FCの八角剛史の退場により、数的優位をも手にする事となるのである。
そうした状況があっただけに、後半立ち上がりの連続ゴールは意外なものだった。チームを救ったのは同点ゴールへの強い意欲とそれに伴う前への意識。そして後半開始から途中出場し、その意思を体現した高地系治だった。高地は48分にまず同点ゴールを決めると、続く49分にも相手の横パスをカットした荒堀謙次に連動してゴール前へと抜けだしループシュートを沈める。高地曰くこれだけ短い時間での連続ゴールは09年のリーグ最終戦のC大阪戦でのロスタイム以来だとのこと。劇的な場面を演出できるという点では「持っている」選手だという事なのだろう。
当然のごとく、ここから東京Vは猛攻撃を仕掛けるのだが、後半からアンカーに入ってた佐藤謙介が「ある程度引いいてブロックを作りたい」と周囲の選手に話をし、実際に横浜FCはそうした戦いに移行していく。1人多いチームが負けている状況では当然、前から攻めて来る。引いてブロックを作るというのは、そうした際の対処方法としてはオーソドックスな手法であろう。そして、守ることを意識した後半を無失点で乗り切ったという点で横浜FCとしては、してやったりの展開だったといえる。
この後半の戦いについて東京Vの立場の証言としては菊岡拓朗の「後半に相手が前から来るのは分かっていた。もう少し蹴っても良かった」との反省の弁がある。まともに横浜FCのプレスを受けてしまった事が、東京Vの失点の遠因であるとの分析で、それはあながち間違いではないと思われる。
そういう意味では、ピッチ上での試合運びの巧拙が試合結果を左右したという事が言えるのかもしれない。内容では押し込まれながら、ミスでの1失点で前半を乗り切った横浜FCに対し、東京Vは相手が来ることが分かっていた後半の立ち上がりにまともにやり合ってしまい、そして1分間に2失点を喫してしまった。
ある程度の戦術をベースとして持っているその上で、状況に応じた戦いがピッチ上の選手たちによって展開される。つまりリアルタイムに戦況に対応したチームが勝利を掴んだのだと、この試合はそういう試合だったのだろうと考えている。
今季ようやく手にしたホームでの初勝利に岸野監督は「涙が出そうでした」とその喜びを表現しつつ「1回勝ったくらいでは泣いてられない」とチームが置かれた現実と向き合っていた。実際のところ、アウェイ側のバックスタンドに、逆さに掲げられた横浜FCの横断幕が存在しており、優勝を目指すチームが厳しい状況に置かれ続けているのは間違いない。そもそも、試合運びのうまいチームであれば、あの後半の連続失点はなかったかもしれない。ただ、それにしても、現実に横浜FCは勝ち点3を手にし、サポーターは三ツ沢で歓喜の歌を歌った。この試合に対しては、様々な角度の切り口からの講釈はあるのだろうが、根本的には、苦しんだチームが勝ち点3を手にし、サポーターが喜びを爆発させたという試合だった。岸野監督の喜びを見ていると、それだけでいいような気がしてくるから不思議である。
江藤高志のツィッターアカウントはこちら。
0 コメント:
コメントを投稿