「たった一人が代えた」のだと言うと、言い過ぎになるのかもしれない。ただ、それにしても大宮は別物のチームになっていた。浦和との大一番を迎えた大宮の、その攻撃を形作っていたのは、この試合が復帰戦となった東慶悟だった。
先日取材し原稿にもまとめたC大阪戦の大宮はタテにパスが入っていかず、攻撃の形が全く作れていなかった。大宮の立場から言えば稀に見る凡戦そのもののC大阪戦後、チョ・ヨンチョルがこんな言葉を述べていた。
「ボールは回せるが、最後のところで崩せなかった」
これはつまり、C大阪の形成する守備ブロックの外側ではボールは回せるのだが、縦パスが入っていかないという試合展開を指したもの。ところが浦和戦では、立ち上がりの4分のプレーを皮切りに東から出てくる縦パスに合わせチョ・ヨンチョルが浦和のゴールに肉薄する場面が多数見られた。後ろのポジションの選手からパスを引き出した東は、そのボールをもう一つ前の位置へと運んだ。見た目は簡単そうに見えるが、おそらくは誰もが出来るプレーではないのだろう。大宮の戦いが、東の有無で大きく変わったことがそれを示していた。
浦和を相手に真っ向から勝負するスタンスを取る中、8分にチョ・ヨンチョルが先制点を決めて大宮は軸足を後ろに置き始める。試合後のペトロヴィッチ監督は「大宮は1点リードしたことで引き気味にやっていた。(そこからの)カウンターが相手の狙いでした」と振り返る。そんな試合展開の中、大宮は27分にラファエルが追加点を決める。2点をリードした以上無理に攻めることはないのだと、そんな戦いを大宮がはじめる。
事前に用意されていたゲームプランでも、ベンチからの指示でもなかったという。ただ「ここで前に出たら、後ろにスペースが開いてしまうな。ちょっと様子を見よう」という考えがピッチ上の選手たちに伝播し、気がつけば強固なブロックを自陣で作っていたということのようである。あまりに全体が下がりすぎていたこともあり、選手たちはベンチにこれでいいのか、問うたという。しかしそうした状況をベンチは容認した。本拠地で浦和に勝てずにいたという歴史を何とか転換したい。そうした思いが必死さとなり、大宮は守りに入る。
ペトロヴィッチ監督は膠着したそんな展開を打開すべく後半の頭から原口元気を。73分にはデスポトビッチを投入する。しかし浦和は、彼らが持つ選手の良さを生かすことができなかった。もちろん必死に守る大宮の守備の強さは試合を左右した要素の1つだった。ただ、それにしてもボールを失うことを怖がっているかのように、浦和は厳しいところにボールを入れられなかった。
相手を崩すためのリスクを取った大宮が試合を動かし、選手の特徴を生かすためのリスクを取れなかった浦和が、得点に見放される。
もちろん、後半の10本の浦和のシュートが1つでも決まっていたら、大宮が実行した守備的な戦いが破綻していた可能性は高かった。しかし、結果論で言えば大宮の戦いは成功した。どんなに不細工であろうとも、さいたまダービーを勝ちきるのだという意志の力が浦和を押し切った。
内容は別にして、2−0の勝利を無邪気に喜ぶ大宮のサポーターの姿が。そして、その行為への賛否は別として、試合後に浦和の選手バスを止めて抗議した浦和サポーターの姿が、この試合にかける両チームサポーターの気持ちの強さを示していた。
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